私たちは、菜園づくりを始めた。
 作物を育て、生物多様性を楽しみ、その成長ぶりに目を見張っている。
 そうすると、ミツバチさんが恋しくなってくる。

 アメリカの生物学者、レイチェル・カーソンが、1962年『沈黙の春』を著わし、農薬や殺虫剤の使用により鳥の鳴かない春を警告したことは、あまりにも有名である。
 しかし彼女は同時に「沈黙の秋」にも言及していたのである。
 つまり花粉を運搬し受粉を促す昆虫の消滅を憂慮していたのである。

 あれほどブンブン飛んでいるハチがいなくなるとは考えられなかったし、私も当時、それは杞憂であろうと思った。
 しかし2006年秋。北半球から1/4のハチが消えたのである。Colony Collapse Disorder(蜂群崩壊症候群)と呼ばれる。
 半世紀を経て予言が当たったのか、違う要因があるのだろうか?

 そこでハチについて調べてみた。
 ハチの種類は2万種にも及ぶ。しかし、社会集団としてせっせと蜜を集めるのはたった1種類、「アピス・メリフェラ(セイヨウミツバチ)」だけである。
 1ミリグラムの脳しかないのに集合体となると複雑な共同作業をこなす大変な知性体である。
 このハチが消滅。異常事態である。

 私たちが、単に蜂蜜を食べられないという問題より、雄しべと雌しべの受粉がされないと、実がならない『沈黙の秋』を迎えることになる。
 移動養蜂の蜂箱1箱(5万匹)のミツバチは、1日に2,500万個の花を他家受粉させることができるのである。

 今、私たちは、屋上菜園に注力中であるが、ナス、キュウリ、ピーマン、枝豆、トマトなどを植え、われら新入生の「にわかファーマー」が水をやり、成長記録をつけ、支持柱や誘引の紐をたらし、風対策をしたり、大変な奮闘中であるが、最後の頼りはハチさんである。
 この1億5,000万年にわたり働いてきたハチがいなくなったら大変だ。

 犯人はダニだ。犯人は電磁波だ。犯人は遺伝子組み換え作物だ。犯人はネオニコチノイドだ!……
 これら諸説が絡み合っていると思うが、西欧のミツバチの消滅の原因として、私は、夢の農薬と言われるネオニコチノイドを疑っている。

【参考】 ニホンミツバチは、ミツバチヘギイタダニに抵抗力がある(ロシア蜂と同様に)稀有な存在で、オオスズメバチへの撃退能力もある。その上おとなしいし嬉しい存在である。

 このネオニコチノイドを含む農薬イミダクロプリドは、世界100ヵ国140種類の農作物への使用許可を受け、5億6,000万ユーロを売り上げている。薄いイミダクロプリドに浸した種を播けば、害虫はノックアウトとなる。
 つまりイミダクロプリド(500~100ppb)に触れたハチは、殺されはしないとしても、巣に帰る能力をなくすのである。一種のアルツハイマーである。

 そう、沈黙の秋を人間がつくりだしているのである。
 この実りなき秋は、本来人間が自然に経済の論理を押し付けたことに根本的な原因があるのである。
 自然への敬畏を持つべきなのである。
 ここまで大上段に構えずとも、私たちは日々の生活の中でこうしたことに関心を持つべきなのである。
 ネオニコチノイドは、オールインワンの花用の栄養剤にも入っているという。恐怖。

 こうしたことがあまり知られずにいることの原因の一つとして、都会に住む人たちが自然から遠ざかり、「私食べる人」になっていることも大きい。
 さぁ、都会の人間も屋上やベランダのファーマーとなって、花の受粉をするハチさんをいとしもうではありませんか。
 都会の人たちよ、屋上の一隅で菜園を作ろうではないか。そして都市ファーマーとなり、ハチさんのために立ち上がろう。
 生物のダイバーシティを守る。それが共生社会というものだ。
 今月もありがとう。